「食育」って・・・なぁに? 食育基本法から学ぶシリーズ【第6回】
一般社団法人スポーツ栄養コンディション協会のスポーツ栄養コンディショニングアドバイザーマスター認定講師の杉本です。
前回(第5回)は食育基本法の成立前夜から成立に至る間の立法府、行政府の動きをみてみました。
今回からは食育基本法を少し詳しくみていくことにしましょう。
食育基本法は33条からなる簡単な法律です。
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/pdf/kihonho_27911.pdf
第一条に目的が述べられています。
この法律は、近年における国民の食生活をめぐる環境の変化に伴い、国民が
生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性をはぐくむための食育を推
進することが緊要な課題となっていることにかんがみ、食育に関し、基本理
念を定め、・・・
そして第二条にはこう述べられています。
食育は、食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実
現することにより、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資すること
を旨として、行わなければならない。
第五条には子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割がこう述べられています。
食育は、父母その他の保護者にあっては、家庭が食育において重要な役割を
有していることを認識するとともに、子どもの教育、保育等を行う者にあっ
ては、教育、保育等における食育の重要性を十分自覚し、積極的に子どもの
食育の推進に関する活動に取り組むこととなるよう、行わなければならない。
ここで、内閣府食育推進室が2016年3月に発表した「第3次食育推進基本計画参考資料集」から気になるデータを取り上げてみます。
http://maff.go.jp/j/syokuiku/plan/refer.html
[炭水化物エネルギー比率の状況]
男性 20~29歳 57.1 30~39歳 59.5 60~69歳 60.8 70歳~ 63.0
女性 20~29歳 54.6 30~39歳 56.9 60~69歳 58.4 70歳~ 61.1
男女共20~29歳の比率の低さが気になります。
[脂肪エネルギー比率の状況]
男性 20~29歳 28.8 30~39歳 26.5 60~69歳 24.7 70歳~ 22.2
女性 20~29歳 30.6 30~39歳 28.6 60~69歳 26.2 70歳~ 23.6
逆に男女共20~29歳の比率の高さが目立ちます。
※厚労省「平成26年国民健康・栄養調査」「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会報告書」
[成人の朝食摂取頻度] 「ほとんど食べない+週に2~3回食べる」の比率
男性 20~29歳 35.1 30~39歳 31.8 60~69歳 7.4 70歳~ 3.9
女性 20~29歳 23.4 30~39歳 15.8 60~69歳 3.2 70歳~ 2.0
男女共子育て世代の20~29歳、30~39歳の朝食欠食率の高さが気になります。
[健全な食生活の実践の心がけ]「余り心がけていない+まったく心がけていない」の比率
男性 全世代 33.4 若い世代 42.2
女性 全世代 14.6 若い世代 22.2
[栄養バランスに配慮した食生活の実践]「ほとんどない+週に2~3回」の比率
男性 全世代 26.0 若い世代 34.3
女性 全世代 19.6 若い世代 31.1
どうですか?ここから一つの大きな課題が浮かび上がってきませんか?!
次回(第7回)は2月19日にUPの予定です。
「食育」って・・・なぁに? 食育基本法から学ぶシリーズ【第5回】
一般社団法人日本スポーツ栄養コンディション協会のスポーツ栄養コンディショニングアドバイザーマスター認定講師の杉本です。
2月1日スタートしたこのシリーズも第5回。本当は昨日UPする予定だったのですが・・・一日遅れになってしまいました。
前回(第4回)は2000年代に入ってからの国の動きをみてみたのですが、今回はいよいよ「食育基本法」成立の動きをみてみることにします。
自由民主党は2002年11月に食育調査会を設置、同月21日に第1回会合を開催しています。
2003年6月12日には中間とりまとめを行い、同月18日には関係8大臣(※)に申し入れを行っています。
(※)総務、財務、文科、厚労、農水大臣、官房長官ほか
2003年10月には政権公約いわゆるマニュフェストに「食育基本法」制定を盛り込み、同年12月には「食育基本法案」を策定することを決めました。
その後の主な動きは以下のとおりです。
・2004年1月23日 食育基本法プロジェクトチームを設置
・2004年3月15日 第159回国会で自公与党が参議院に食育基本法案提出
・2004年6月3日 衆議院に同法案提出、継続審議
・2004年12月1日 衆議院内閣委員会で継続審議開始
・2005年4月19日 第162回国会、衆議院で可決
・2005年6月17日 参議院で可決、成立
・2005年7月15日 同法施行
食育基本法法案は http://www.cao.go.jp/
自由民主党が食育調査会を立上げてから僅か3年足らず。そのスピード感は当時の国民の「食」に対する不安・不信が政権を揺るがすほどに大きいと政府与党及び国が強く受け止めていた証拠だと言えるのではないでしょうか!
それから12年経った今、状況は改善しているのでしょうか?
食に関する様々な事件や事故が繰り返される報道がなかなか後を絶たないですね。
次回(第6回)は2月16日を予定しています。食育基本法を少し詳しくみることにします。
「食育」って・・・なぁに? 食育基本法から学ぶシリーズ【第4回】
一般社団法人日本スポーツ栄養コンディショニング協会のスポーツ栄養コンディショニングアドバイザーマスター認定講師の杉本です。
2月1日からスタートしたこのシリーズも今日が第4回。
前回(第3回)は、1990年代に入って食育にスポットが当たる時代背景や世相についてみてみました。
今回は、2000年代に入って以降の、特に国の関わりについてみてみることにしたいと思います。
(退屈な話しが続きますが、ますます食に対する関心が高まる現代に繋がる話しです。)
2002年4月、農林水産省は「BSE問題や食品の虚偽表示問題等※に関連して、『食』と『農』に関する様々な問題が顕在化している」との認識のもと、「『食』の安全、『食』の選び方や組み合わせ方などを子どもたちに教える「食育」を促進する」として、「『食』と『農』の再生プランを発表しました。
※ この問題は第3回で取り上げています。
同年6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」の中で、健康寿命※の増進の観点から、「関係府省は、健康に対する食の重要性に鑑み、いわゆる『食育』を充実する」しました。
※ 健康寿命と平均寿命(内閣府「平成27年版高齢社会白書」から)
2013(平成25)年 平均寿命 健康寿命 差し引き
男 80.21 71.19 9.02
女 86.61 74.21 12.40
健康寿命=日常生活が制限されることなく生活できる期間
日本の行政ってまさに縦割り。農林水産省、厚生労働省、文部科学省・・・様々な省庁がそれぞれの守備範囲を誇示し権益を守るために似たようでいてすり合わされていない政策を展開するのは、残念ながら今も変わっていないように思うのは僕だけでしょうか?
同年11月、文部科学省、厚生労働省、農林水産省は、3省連携による食育推進連絡会議を設置し、「食生活の改善や食品の安全性に関する情報提供等を内容とする『食育』を推進していくこと」としました。
2003年6月の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」では、食育は「人間力を養う柱」として位置付けられ、「食の安全、安心確保の基礎となる『食育』を関係行政機関等の連携の下、全国的に展開する」こととしました。
これに先立つ2003年5月16日には食品安全基本法が成立しています。
この後、3省が競って各種施策を立案・実施していくことは想像に難くありませんが、このシリーズでは割愛します。
次回(第5回)は2月13日の予定です。
「食育」って・・・なぁに? 食育基本法から学ぶシリーズ【第3回】
一般社団法人日本スポーツ栄養コンディショニング協会のスポーツ栄養コンディショニングアドバイザーマスター認定講師の杉本です。
一般社団法人日本スポーツ栄養コンディショニング協会 http://jsnca.com
前回(第2回)は、1990年代に入って食に関心のある人々や関係者が食育という言葉を使用することが増え、次第に大きな流れになっていくことをお伝えしました。しかし、それにはそうなるための「必然」があるはずですね。
第3回はそれをみていくことにしましょう。
1990年代以降に食育の必要性が説かれるようになったのには、現代の食に関する様々な課題が潜んでいたのです。
様々な課題とは・・・
①脂肪摂取の過剰など、栄養バランスの悪化傾向
②朝食欠食の習慣化、孤食(一人で食べること)や個食(家族が各々異なった料理を食べること)
内閣府「食育に関する意識調査」(平成27年10月)
男性 20~29歳 ほとんど食べない 24.6%
週に2~3回しか食べない 10.5%
30~39歳 ほとんど食べない 23.1%
週に2~3回しか食べない 8.7%
60~69歳 ほとんど食べない 5.1%
週に2~3回しか食べない 2.3%
女性 20~29歳 ほとんど食べない 13.0%
週に2~3回しか食べない 10.4%
30~39歳 ほとんど食べない 10.8%
週に2~3回しか食べない 5.0%
60~69歳 ほとんど食べない 1.5%
週に2~3回しか食べない 0.5%
独立行政法人日本スポーツ振興センター「児童生徒の食生活実態調査」(平成22年度)
[ほとんど食べない+週に4~5日食べない]比率
小学生 男子 3.2% 中学生 男子 5.0%
小学生 女子 1.8% 中学生 女子 2.6%
③児童生徒の肥満の増加、過度の痩身、体力の低下傾向など、健康への悪影響
④食の安全に対する信頼の喪失
BSE(牛海綿状脳症)問題・・・一般的には狂牛病問題、牛の脳の中に空洞
ができ、スポンジ状になる病気。日本では、2001年9月に千葉県でBSEの
疑いのある牛が発見されたとの農省発表 ⇒ 食用牛の全頭検査が導入
雪印食品産地偽装事件・・・国産牛肉買い取り事業を悪用し国外産牛肉を
国内産と偽って国の買い取り費用を不正請求
⑤体に良い食品、悪い食品に関する情報が氾濫する一方、適切な情報が不足していること
⑥食の外部化、ライフスタイルの多様化などにより、保護者が子どもの食生活を把握し、管理していくことが困難になっていること
今では日常生活において当たり前・・・というより欠かせない存在となったコンビニエンスストア
日本フランチャイズチェーン協会の統計資料より(店舗数)
1985年 7,419店 1990年 17,408店
1995年 29,144店 2000年 38,274店
2005年 42,643店 2008年 44,391店
⑦家庭において、食材に関する知識、調理技術、食文化、食に関するマナーなどを継承することが難しくなりつつあること
⑧食料資源の浪費
環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況、産業廃棄物の排出及び処理状況」から推計(平成24年度)
食品産業全体の食品廃棄物等の発生量 1,916万トン(可食部 331万トン、不可食部 1,585万トン)
家庭系食品廃棄物の推計発生量 885万トン(可食部 312万トン)
つまり、可食部643万トンが廃棄されている!
があげられます。
第3次食育基本推進基本計画参考資料集 http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/pla/refer.html/
これって20年以上経った今でも、状況は変わっていないように思えます。それどころかますます悪化している印象すらあるのではないでしょうか。
次回(第4回)は2月10日にUPの予定です。
「食育」って・・・なぁに? 食育基本法から学ぶシリーズ【第2回】
スポーツ栄養コンディショニングアドバイザーマスターの杉本です。
※日本スポーツ栄養コンディション協会
http://jsnca.com
第1回では食育基本法の前文をみてみましたね。”未来を担う子どもたち”が主役でした。
第2回では「食育」という言葉の起源を、現代にいたる時間の流れの中で学んでみましょう。(少し退屈ですが歴史を学ぶことは大事ですからね。)
「食育」という言葉はいつ頃から使われていたのでしょう?
起源としては明治期の書籍をあげる事が多いようです。
■食養生の指南書「食物養生法」(石塚左玄 明治31年)
著者が説く食養生法により子どもの心身をはぐくむこと
■ベストセラー小説「食道楽」(村井弦斎 明治36年)
食物について知識を深め、良い食物を与えることによって子どもの心身をはぐくむこと
ただ、一般に定着するには至らなかったようです。
近年では1980年代に小児科医の真弓定夫氏や大分大学教授の飯野節男氏が図書・論文で使用されたものの、「食育」の語を冠した取り組みが広がることはなかったようです。
1990年代に入ると、食に関心のある人々や関係者がこの言葉を使用することが増え、次第に大きな流れになっていきます。
「食育」は健康・食生活ジャーナリストの砂田登志子氏が「欧米の生活習慣病を予防する見地から子どもを対象に行われている健康的な食習慣を身につけさせるための教育」を日本に紹介し、これを食育と呼んで普及に努めてこられたのが発端とされています。
また1993年には厚生省保健医療向健康増進栄養課(当時)の監修で「食育時代の食を考える」が出版されています。
1990年代から現代までの「食育」の主眼は、食について子ども自身を教育することが主眼に置かれていました。
このシリーズ、第2回~第5回は農林水産省農林環境課の森田倫子氏が書かれた以下の論文を参考にしています。
食育の背景と経緯 -「食育基本法案」に関してー 調査と情報457号
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/pabilication/issue/0457.pdf
文章ばかりで退屈な内容ですが、第3回をお楽しみに~
「食育」って・・・なぁに? 食育基本法から学ぶシリーズ【第1回】
一般社団法人日本スポーツ栄養コンディション協会主催のスポーツ栄養コンディショニングアドバイザーマスターの杉本秀明です。
今日2月1日から10回連載で食育基本法から「食育」を学んでみようと思います。
きっかけは・・・昨年2016年12月11日に東京で開催されたマスターミーティングに来られていた協会アドバイザーの森下尚浩氏(ファスティングマスター学院理事)のお話しでした。
その時は、へぇ~ そんな法律があるんだ?程度に聞いていました。でも調べてみて驚きました。
その驚きを皆さんとシェアしたくてこのシリーズを思いつきました。
文字が多くて、退屈かもしれませんが最後までお付き合い頂けたら、「知っ得」情報がゲットできますよ!
「食育基本法」は全33条からなる法律です(A4で10ページなので一度読んでみて下さい)。
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/pdf/kihonho_27911.pdf
前文があります。そこに、3つの大事なポイントが書かれています。
『子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも「食」が重要である。』
続けてこう書かれています。
『今、改めて、食育を、生きる上での基本であり、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選抜する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている。』
そして、こう続きます。
『もとより、食育はあらゆる世代の国民に必要なものではあるが、子どもたちに対する食育は、心身の成長及び人格の形成に大きな影響を及ぼし、生涯にわたって健全な心と身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるものである。』
食育を知育、徳育、体育の基礎だと位置付けています。
「食」に関する知識と「食」を選択する力の習得を重視しています。
そして何よりここでは「子どもたち」が主役です。そう! ”未来を担う子どもたち”が主役なんです。
第2回は2月4日にUPします。